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2014.06.07 Sat
「リーダーの資質はどこにある?」 ――宮本慎也(元東京ヤクルトスワローズ) Vol.01
昨年、19年にわたる現役生活にピリオドを打った宮本慎也(元東京ヤクルトスワローズ)。


 現役通算2133安打を放った名球会プレイヤー(※1)であると同時に、第6代プロ野球選手会会長でもあり、04年のアテネオリンピックでは野球日本代表『侍ジャパン』のキャプテンも務めた。彼のグラウンド内外にわたるリーダーシップはチームの枠を超えて、球界全体からも高い評価を受けていた。まさに野球選手としてだけでなく、人間としても一流だった。


 しかし、彼の現役時代、私がヤクルトの若手選手たちにインタビューすると少し様子が違っていた。宮本について質問をすると、途端に歯切れ が悪くなることがたびたびあったのだ。


「宮本さんは頼りになるリーダーだと思います。 ただ、自分にも他人にも厳しいので、ついていくの は大変ですが……」


「宮本さんが理想とする野球はかなりハイレベルな んです。頭でわかっていても、それを実際にやると なると難しいと思う。あれは宮本さんだからできるん です……」


「宮本さんの言うことは正しいけど、それが誰にでも あてはまるわけじゃないし……」



 マスコミで報道されている“責任感あふれる高貴なリーダー”という宮本の姿。そして、それを慕う若手たち。そんなイメージとは異なる発言の数々に、私は違和感を覚えたことが何度もあった。


こうしたことについて、宮本本人に尋ねてみたこと がある。宮本は苦笑した。

「だって僕、みんなから嫌われていますからね」

平然と宮本は答えた。詳しい理由を聞いた。

「まぁ、気がついたことは、遠慮しないでどんどん言うようにしていますから、それを“うるさいな”とか“面倒くさいな”と思う選手も、当然いるでしょうしね」


 確かに、宮本にインタビューをしていると、若手選手への辛辣な言葉がしばしば聞かれる。ただ、そこには「もっとうまくなってほしい」、「もっと強いチームにしたい」という思いが見え隠れしている。しかし、言われた当事者にとってみたら、単なる小言にしか受け取れないかもしれない。宮本は続ける。

「失敗は誰にでもある。
そこをどうするか。何となく言い訳をすれば、その場は逃げることができるんですけど、それを続けていると、いつまでたってもそいつの前には同じ壁しか現れない。違う壁が来ない。
つまり、いつも同じ壁にぶち当たるだけで、選手としての成長は絶対にないんです。ビジネスの世界でもそうじゃないですか? なかなか自分のミ スを認められずに、“すみません”のひと言が言えない。ウソでもいいから、それを認めることで、次に変わることができるのだと思うんですけどね……」



宮本の言葉はいつも正論だ。
しかし、実績のある先輩からの正論は、ときに若手にとっては耳障りなこともある。宮本の話を聞き、つい感想が漏れる。


――嫌われることがわかっていて、それでも言い続ける。すごいですね。

宮本は静かにほほ笑んだ。

「僕だって嫌われたくないですよ、自分がかわいいから。でも、それを言わなければいけないときは必ずある。それが上に立つ者の仕事ですからね」


 誰もが人に好かれたく、誰もが無難に生きていたいと考えている世の中において、宮本には「嫌われる勇気」がある。それが、リーダーにとって必要不可欠な条件だと彼は知っているからだ。しかし、宮本は少し照れたように首を振る。


「いやいや、そんなに大げさなものじゃない。
仕方ないから言っているだけです」



間違いなく、今後の球界を背負っていくことになる「リーダー」は最後まで謙虚だった。


※1
「名球会」……正式名称/一般社団法人日本プロ野球名球会
日本のプロ野球でプレーした選手および元選手による法人格を持った団体。
「社会の恵まれない人たちへの還元と日本プロ野球界の底辺拡大に寄与する」ことを目的に、国内外で少年野球指導や支援をはじめとする野球の普及促進および社会貢献、講演などに取り組んでいる。
入会資格/(1)日本プロ野球の選手または元選手(2)昭和生まれ以降(3)日米通算で次のいずれかを達成していること(通算200勝以上、通算250セーブ以上、通算2,000本安打以上)。